金曜日, 10月 27, 2006

 

イラク戦争による死者の数

一回目のポッドキャストのテキストを下に示します。ポッドキャストそのものを録音し直してからこのページで公開しようと思っていますが、当分の間、テキストのみをここに載せたいと思います。

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 こんにちは!「アメリカメディアにイギあり!」の一回目のポッドキャストです。私はカーク・マスデンと言います。アメリカ出身で、熊本学園大学の国際経済学科で「比較文化論」を教えています。今日のテーマは「イラク戦争による死者の数」です。
 今日は一回目なので、今日のテーマの他に、これからどのような番組を作っていこうと思っているかや、タイトルの意図などを説明したいと思います。
 そもそも、ポッドキャストを始めようと思ったのは、普段、私がインターネットを通じて聞いているラジオ番組やインタビュー、講演などのなかには、非常に内容がいいものがあって、ぜひ日本の方にも紹介したいと思ったからです。特に、日本やアメリカの大手メディアにはあまり出てこないが、重要と思われる話題や内容を紹介していきたいと思います。日米の国民には大変重要な内容であっても、為政者やスポーンさーなどが明るみに出してほしくない場合が少なくありません。幸い、大手メディアがそうしたプレッシャーに負けて、そういう話題を避けても、比較的マイナーなメディアで取り上げられることがよくあります。このポッドキャストではそういう話題を中心にして、インターネット上で聞けるいい話を紹介していきたいと思います。
 今回もこれからも、ポッドキャストと同じ中身のブログを出していきます。私の下手な日本語を聞きたくない人はポッドキャストは必要ありませんが、逆に普段からポッドキャストとして聞く人にはブログの存在を忘れないようにしていただきたいと思います。というのは、ポッドキャストでアメリカの番組などの内容を自分なり紹介することはできますが、肝心なリンクなどはブログで見る必要があります。詳しく知る必要がないと思われる場合はポッドキャストだけでもかまいませんが、もっと詳しく知りたい、あるいは元の放送を聞きたいと思うときはブログを見たください。このポッドキャストの原稿を全文載せ、ところどころ私が参考にしたページ等へのリンクを貼ります。
 さて、今日のテーマである「イラク戦争による死者の数」は大手メディアではあまりでてこないが、比較的マイナーなメディアで詳しく報道されてきた情報のいい例だと思います。最近、イラク戦争による死者はおよそ65万にもなっているというショッキングなニュースがありました。しかし、「ニュースがあった」と言っても、あまり報道されていないような印象を受けています。イギリスの『ランセット』という医学専門誌に発表された研究結果ですが、さきほど日本の「Yahoo!ニュース」で「ランセット」や「死者」等のキーワードで検索してもでてきません。「Googleニュース 日本版」ではもう少しヒット数がありますが、今ネット上でこのニュースについて読める日本語の記事を出しているのは共産党の『赤旗』だけ。
 WikipediaでLancetを検索すると「The Lancet is one of the oldest and most respected peer-reviewed medical journals in the world」とあります。つまり「『ランセット』は世界で最も歴史の長い、評価の高い、査読制の医学雑誌の1つです。」また、『ランセット』で発表された論文はアメリカのジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生学部とイラクのムスタンシリア大学による共同調査で、言うまでもなく、ジョンズ・ホプキンズ大学は非常に評判の高い大学です。更に、この戦争によって何人ぐらいのイラク人の命が失われたかは、日本でも多くの人のとって関心のあるはずのニュースであることも明らかでしょう。共産党支持者やいわゆる「左翼」だけのためのニュースではないでしょう。65万というと、私が住む熊本市の人口です。戦争によって熊本市に住んでいるほど多くの人間が死んでいるという研究結果がきちんとした研究機関から出たというのは大ニュースなはずです。なのに、インターネット上の検索で見つけられる日本語の記事は『赤旗』のものしかないというのはたいへん興味深いことだと思います。
 『赤旗』の記事にも書いてありますが、今回の論文が初めてではありません。2004年10月に同じ調査チームによる論文が掲載されました。その時点では戦争開始後のイラク人死者は約十万人と推計されました。今日はまず、その研究に関するすばらしい放送を紹介したいと思います。「This American Life」というラジオ番組の中の「What's In a Number」というエピソードです。
 この「This American Life」というラジオ番組は商業的な意味合いで、CNNなどのような「大手メディア」にはなりませんが、非常に評判の高い番組です。Wikipediaの中の「This American Life」の項目にある「Awards」という項目を見れば、いかに評価が高いかがわかります。
 「What's In a Number」というエピソードは2004年10月に発表された研究に関する非常に面白く、聞き甲斐のある番組です。英語が特にな方には直接聞いてほしいと思いますが、英語が苦手な方のために簡単に説明したいと思います。このエピソードのわかりやすい、気の利いたインタビューなどを聞いていると、いかに命がけで、そして極めてしっかりとした方法でこの調査が行われたかがわかります。そして、発表されてからこの研究が大手メディアによってどのように無視されたかもわかります。
 さきほど説明したように、65万人の死者の数を報告する最近の論文は日本ではあまり大きく取り上げられていませんが、アメリカのメディアを見ると、2004年の場合よりは扱いが大きくなっています。
 今年の10月14日の『ランセット』のポッドキャストの中で、『ランセット』の編集者であるRichard Hortonは今回と前回のアメリカメディアでの扱いの違いについて話しています。Hortonは今回のメディアでの扱いを褒めています。私は少し褒めすぎだと思いますが、前回と同じでないことは確かです。今回のメディアでの扱いが大きくなっているので、ブッシュ大統領はコメントせざるを得なくなりました。ブッシュは片っ端から研究の信憑性を否定しましたが、Hortonは皮肉たっぷりで、ブッシュのこの傲慢さ、いい加減さを批判しました。
 ブッシュ政権が研究の信憑性を否定していますが、皮肉なことに、この研究で用いられているクラスター分析という統計的な手法は、アメリカ政府がコソボやアフガニスタンで死者の数を推定するときに使ってきた手法です。この事実は論文の著者の一人であるLes RobertsがDemocracy Nowという番組の中で指摘されています。興味深いインタービューなので聞いてもらいたいと思います。ちなみに、Democracy Nowは政治的にはいわゆる「左」の傾向がはっきりしています。しかし、今回のように、大手メディアではあまり聞くことのできない、さまざまな分野の第一人者とのインタビューが多いので、お勧めしたいと思います。また、英語を学習しながら聞く方にとってうれしいのは、インターネットで公開されているtranscript(筆記録)です。パソコンやiPodなどで話を聞きながら、テキストを見て、目で確認したり、わからない単語を引いたりすることができます。
 以上で今日のテーマである「イラク戦争による死者の数」に関する話を終わります。
 最後に、タイトルの「アメリカメディアにイギあり!」の「イギあり」には二つの意味が込められていることを説明したいと思います。1つは「異議を唱える」の「異議あり」で、このポッドキャストでアメリカ政府の言い分を十分に検証しない、あるいはアメリカ政府などにとって都合の悪い情報を十分に取り上げない大手メディアの問題を指摘することが多くなると思います。今回のポッドキャストの中に、アメリカや日本のメディアに対する、この種の「イギあり!」がありましたね。もう1つは「有意義」の「意義あり」で、一部のメディアに本当にすばらしい内容があり、非常に勉強になるだけでなく、「こういう人もこの世の中にいて、頑張っている」ということで希望や感動を与えてくれるような内容があります。「This American Life」の番組のすばらしさやイラクで命がけで研究に取り組んできた人たちにはこの意味合いで、本当に「意義のある」ことをやっていると思います。問題点を指摘するだけなら、気持ちは滅入るし、あきらめにつながるだろうと思います。しかし、「意義のある」活躍を紹介することによって、元気が出るようなポッドキャストを目指していきたいと思います。特に今回、めげずに研究を続けてきた結果、いよいよ注目され世論に重要な影響を与え始めていると思います。暗い話題の多い今日ですが、『ランセット』で発表されたような取り組みの意義を十分に認識して、決してあきらめてはならないと思います。
 以上、一回目の私のつたないポッドキャストでした。最後まで聞いてくださり、ありがとうございました。

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